「土を活かした野外劇を」竹重洋平
今年で二十六年目になる椿組花園野外劇の魅力など、今さら挙げるまでもないが、新参者の身としては、よく心得るべき点である。代表的なものを述べれば、やはり、ビールを飲みながらの観賞がOKの懐の深さ。魚も踊るほど暑苦しい異次元のような客席の一体感。
時にテントに当たって鳴る嫉妬深い雨音のしらべ。そして何といっても、あらゆる文化文明の原動力となってきた、本物の土だろう。劇場公演では体験出来ないそれらの醍醐味も、活かさなければ邪魔になりうる産物で、気取ったゲージュツでも披露しようもんなら、アッという間に掻き消されてしまう熱気がある。そこが好きだ。
「いかに土を隠さずやるかだ―」そう、プロデューサーは仰せられた。その自然に対する畏敬の念は、本作の題材とどこかリンクするものがあるかもしれない。
この物語は、大正時代に起きた、人食い熊による食害事件がモチーフになっている。いつどこから襲い掛かってくるか分からない自然や野生の猛威は、いつの時代も我々人間を脅かしてきた。そんな死への恐怖に抗って、もつれ始める滑稽無様な人間模様。
さあ、人里に下りてきた獣と孤高のマタギの壮絶な戦いを通じて、野外でなければ観ることのできない、馬鹿に威勢のいい芝居を御覧にいれましょう。
ビールとうちわを両手に、目がテンになってくれたら幸いです。
竹重洋平 Youhei Takeshige 劇作家・演出家 弾丸MAMAER主宰